ゲーテについてのQ&A/東京ゲーテ記念館

ゲーテの名言として、「人間は現在がとても価値のあることを知らない。ただなんとなく未来のよりよい日を願望し、いたずらに過去とつれ立って嬌態を演じている。」という言葉がネットにたくさん載っていますが、出典を明記したものがまったくありません。出典と原文を教えてください。


引用の引用、いわゆる孫引きが常のインターネットではよくあることです。 この言葉についての問合せは多く、ネットにはその「英文」も載っていますが、すべて意訳です。ドイツ語原文が提示されず、「英訳」だけがあるのも不思議です。

この言葉は、ゲーテと親交の深かった枢密顧問官フリードリッヒ・フォン・ミュラー (Friedrich von Müller) の日記のなかで書かれている「ゲーテの言葉」の要約か意訳です。

もとの文章の日本語訳は、木村謹治訳、フォン・ミュラー翰長手記『ゲーテ随聞記』、櫻井書店、昭和24年、1949年、p256~257が初出と思われます。

その個所の木村謹治訳:
私はゲーテが令息及びテップフェルと食卓に着いて居る處を訪問した。イエーナの圖書館員達の日記が提出された。斯う言ふ日記の特別な効用が、一般に日記或は備忘録の効用同様稱讃された。彼は言った。
「我々は現在と言うものを重んずることが餘りに少ない。我々は大概の仕事を、その仕事から逃れ度い為に、唯苦役の様に遣ってのけてゐる。果たした仕事、又體験した事柄の日々の一覧表があって始めて我々は自分の仕事を見て嬉しい気持ちになる。そして其の表が我々を誠実性に導いて呉れる。徳行と言うものは悉ゆる状態に於いて眞に適合する事以外の何ものでもない。缺點と過失は斯うして毎日表をつけてゐると自ら際立って見える。過ぎ去ったことを照明することは、未来に對する利益となる。我々が現在の刹那を直ぐに歴史的刹那とする場合に、我々は此の現在の刹那を正しく評価することを學ぶのである。」

なお、木村訳の原書は、「序言」によると、「ミュラーの日記の中からゲーテに関係のある部分を集め Goethes Unterhaltungen mit dem Kanzler Friedrich von Müller と題して、ブルックハルトが出版した(1870年、シュトゥツガルト、コッタ社版)」ものだとのことです。

その部分のドイツ語原文:
»Wir schätzen ohnehin die Gegenwart zu wenig,« sagte er, »thun die meisten Dinge nur frohnweise ab, um ihrer los zu werden. Eine tägliche Übersicht des Geleisteten und Erlebten macht erst, daß man seines Thuns gewahr und froh werde, sie führt zur Gewissenhaftigkeit. Was ist die Tugend anderes als das wahrhaft Passende in jedem Zustande? Fehler und Irrthümer treten bei solcher täglichen Buchführung von selbst hervor, die Beleuchtung des Vergangenen wuchert für die Zukunft. Wir lernen den Moment würdigen, wenn wir ihn alsobald zu einem historischen machen.«

GoetheUnterhaltungen_mit_K.F.M_p116

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