Q:  「人が旅をするのは到着するためではなく旅をするためである」というゲーテの言葉をネットで発見しましたが、原文もあるのに、出典がどこにも書かれていません。ゲーテはどこでこの言葉を書いているのでしょうか?

A: 〝人が旅をするのは到着するためではなく旅をするためである〟は、ゲーテの言葉を集めたという本にも、またネットでは特に、多数掲載されていますが、厳密には、ゲーテ自身が文字として「書いた」言葉ではありません。したがって、彼の作品には出てきません。

出典は、マリア・カロリーネ・フォン・ヘルダー (Maria Caroline von Herder) が1788年9月12日に夫のヨーハン・ゴットフリート・フォン・ヘルダー (Johann Gottfried von Herder) に宛てた手紙の文章です。ゴットフリート・フォン・ヘルダーは、詩人でゲーテの友人でした。

カロリーネは、「ゲーテが、あるとき、さりげなく『ひとは到着するために旅するのではなく、旅するために旅するのだ』と言いました。」 (Goethe sagte neulich eimal: "Man reist ja nicht, um anzukommen, sondern um zu reisen.") と書いています。

本当にそう言ったのかどうかは、わかりませんが、カロリーネはいいかげんなひとではないので、おそらくそのようなことをゲーテが語ったのでしょう。しかし、ゲーテ自身が発表した文章や、遺稿のなかに残っている言葉ではありません。

なお、カロリーネの手紙のこの部分は、ゲーテと話をした人の言葉や回想を集めた Goethe - Begegnungen und Gespräche (Ed. by Grumach, Renate, Bd III 1786-1792) という本に書いてあります。翻訳はまだありません。原書は、当館にありますので、閲読される場合は、予約してご来館ください。

ただし、以上は、ゲーテ自身が書いたかどうかという点を厳密に考慮した答えであって、通常、エッカーマンの『ゲーテとの対話』で「ゲーテが言った」と書かれているのを「ゲーテの言葉」として受け取る慣例からすると、厳密すぎる回答かもしれません。ヘルダー夫人を信用すれば、「ゲーテの言葉」とみなしてもよいでしょう。













東京ゲーテ記念館