当館にある多種類のゲーテ全集や著作集をすべて調べましたが、この言葉に該当する文章は見つかりませんでした。
たしかに、インターネットには、ご指摘の「ゲーテの言葉」が多数掲載されていますが、どこにも出典は明記されていません。それは、出典には関係なく、コピペで増殖したものだからでしょう。
その場合、この「言葉」が英語からのかなり勝手な「超訳」であるという可能性はあります。英語ではこれに近い意味の言葉がゲーテの言葉として流布されているからです。
It is not doing the thing we like to do, but liking the thing we have todo, that makes life blessed.直訳:好きなことをするのではなく、しなければならないことを好きになることが人生を幸せにする。
しかし、この英文を載せているサイトを100以上チェックしても、ゲーテがどこでそう言っているのかは明記されていません。
その代わり、入念に調査した結果、この文章の出典が以下の本からであることがわかりました。
Marj Gurasich(著)
Letters to Oma: A Young German Girl's Account of Her First Year in Texas1847(タイトル)
1989年(出版年次)
19世紀の米国テキサスに移民したドイツ人少女の手紙という形式の本(フィクション)です。そのなかに、次のようなくだりがあります。
「パパは、故郷の有名人ゲーテの言葉 “好きなことをするのではなく、しなければならないことを好きになることが人生を幸せにする”をよく引用していました。」つまり、この英文は、もともと伝聞の言葉(しかもフィクションのなかの)であって、ゲーテからの正確な引用である保証は全くないのです。著者に確かめればわかるかもしれませんが、小説ですから、主人公が「記憶違い」をしていたという設定もありです。
ゲーテ自身の言葉は、遺稿で全集等にまだ掲載さていないものもありますので、今後、どこかでこの言葉に該当する原文を発見できる可能性もあるかもしれませんが、目下のところは「不明」と申し上げておきます。