A: ゲ―テの著作を要約するのはむずかしいですが、以下に主要著作と内容を解説いたします。
《詩集》 Dichtungen
ゲーテは、「劇作家であり小説家である前にまずなによりもすぐれた抒情詩人であった」と言われるように、その数は膨大であり、その世界は広大深遠である。
《ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン》 Götz von Berlihingen mit eiserner Hand (1773)
16世紀の農民一揆の英雄ゲッツがモデル。若きゲーテをとりまく「シュトルム・ウント・ドランク」の時代の反抗的精神を形象化した。戯曲形式にも新風を送った。
《若きウェルテルの悩み》 Die Leiden des jungen Werthers (1774)
人妻を愛する青年の自殺をあつかったこの小説は、出口の見えない当時のペシミスティックな時代の気分にマッチし、爆発的なベストセラーになった。主人公をまねて自殺に走る者も続出した。
《タウリス島のイフィゲーニエ》 Iphigenie auf Tauris (1779/1786)
トロイヤ戦争を舞台にしたエウリピデスの戯曲に登場するこの娘を、一歩進めて、暴力や反抗とは異なる新しい対話の実践者としてとらえ返す。ゲーテの成熟した現実観と政治観が見える。
《エグモント》 Egmont (1787)
オランダ独立戦争時に実在した伯爵をモデルにするこの戯曲は、民衆を悲惨な反抗に導く圧制や弾圧よりも、「寛容の政治」こそが支配者にとっても民衆にとっても有利であることを示唆している。
《トルクワート・タッソー》 Torquato Tasso (1790)
16世紀イタリアの著名な詩人を主人公にし、その自己愛的な人物が限界に目覚めるプロセスを生き生きと描く。ロマン的な人生観との決別が明瞭。ドイツ古典主義戯曲の傑作に数えられる。
《狐の裁判》 Reineke Fuchs (1793)
古い動物伝説を使って、「悪い者が必ずしも罰せられるとはかぎらない」現実を風刺した叙事詩。民衆を裏切ったフランス革命の指導者たちがモデルになっているという。
《ヘルマンとドロテーア》 Hermann und Dorothea (1796)
動乱の時代に翻弄される民衆への視点を維持しながら、そのような情況を生き抜こうとする若い男女の出会いを叙事詩の形態で随所に、「今」を照射する言葉が光る。
《親和力》 Die Wahlverwandtshaften (1809)
閉ざされた世界で二組のカップルが起こす「不倫」と相克という形をとりながら、人間の外面と内面との関係が冷厳に観察されている。実験小説として読んでもおもしろい。
《色彩論》 Die Farbenlehre (1810)
晩年のゲーテは、その自然科学研究を、文学活動よりも重要な位置に置いたほどだった。本書や、ニュートンの色彩論批判にとどまらず、現代科学の根本問題につながるものを提起している。
《詩と真実 I/II/III/IV》 Dichtung und Wahrheit. I (1811)/II(1812)/III(1814)/IV(1833)
誕生から1775年にワイマルに役人として招かれるまでの青春時代を回顧した自伝。「真実」だけが語られているわけではなく、華麗な演出や自己解釈(「詩」)がある。
《イタリア紀行》 Italienishe Reise. I/II (1816)
ゲーテにとってイタリアの旅は、思想的にも生き方の面でも大きな転機を作った。日記風の観察と省察のなかに美学から政治、哲学、自然科学にいたる広範な分野への深い洞察と発見が見られる。
《ウイルヘルム・マイスターの修業時代/遍歴時代》 Wilhelm Meisters Lehrjare/Wanderjahre (1796/1829)
価値観や規範が激動する時代のなかで生き、自問する青年の人生が記録されるが、技術文明の台頭、組織の問題、教育と管理等々、極めて今日的なテーマが横溢する。
《ファウスト 悲劇第I部/第II部》 Faust. Der Tragödie erster und zweiter Teil. (1808/1832)
自らの思考、実体験、文学の面でゲーテが試み、なし遂げたすべての成果が投入されている「畢生の大作」。ファウストを読まずしてゲーテを語るなかれといわれる。
《ゲーテとの対話》(ヨハン・ペーター・エッカーマン著)
Gespräche mit Goethe in den Letzten Jahren seines Lebens (1836/1848)
ゲーテは、1823年から死までの9年間、秘書のエッカーマンに向かってその哲学、自著、人生、政治などについて忌憚なく語った。彼の「肉声」を伝える貴重な資料。