『若きウェルテルの悩み』展

2012年4月3日(火)~ 6月30日(土)、8月28日(火)~ 12月8日(土)

ゲ―テが1774年、25歳のときに出版した『若きウェルテルの悩み』は、ベストセラーになり、主人公ヴェルテル(ウェルテル)が着ていた黄色のチョッキがヨーロッパ中で流行し、後追い自殺する者まで出たと言われています。

 日本でも、ロマン主義がもてはやされた大正・昭和の時代には、最も愛読された恋愛小説の1つでした。ゲーテは、この小説の成功によって作家として有名になっただけでなく、ヴァイマル公国のアンナ・アマーリア大公妃の目にとまり、長男カール・アウグスト公の顧問官に抜擢されました。以後、ゲーテはヴァイマルの国政に参与することになりますが、このような当時としては破格の抜擢がなければ、ゲーテの生涯は全く別のものになっていたと考えられます。

 ここで推理をたくましくすると、聡明なるアンナ・アマーリアは、ゲーテを単なる文学者としてはむろんのこと、この小説も単なる恋愛小説とは見ていなかったのではないかという気がします。いまならば、この小説を全く別の視点で読み直せるでしょう。

 実際、この小説はなかなか「政治的」です。話は悲劇的な「恋物語」の体裁を取っていますが、<誰が主人公ヴェルテルについて語り、その資料(手紙や証言)を取り扱っているのか>を考え、想像するならば、この小説が意外にも「推理小説」的な謎に満ちていることに気づくはずです。ヴェルテルは自死したのか、それとも殺されたのか? この小説は一種の「アリバイ」の趣があるのです。

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東京ゲーテ記念館